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2011-01

大川総裁と楽しむ「やり直し英語」(5) 「記号つけ精読法」と「絶対音読」と、友の思い出

 まだまだ「英語編」を書かせて頂く。
 が、勉強法に入る前に、ちょっとしたトピックを。

 ……昨年末。
 大川隆法 幸福の科学総裁が一年の〆に行った大晦日の講義は、なんと、サクセスの中学生向けの英文解釈だった、とのお話をとある方から送って頂いた人気講師のノートから知りました。
 ひゃー。
 そんなこと全然知らずに、年末年始、大川総裁が英語の講義されているのとちょうど同じころに、
 「大川総裁の講義をさらに中高年向けにアレンジ」などという異色の記事を書き殴っていた小生、恥ずかしくてなりません。
 ……情報がないというのは恐ろしいというか、穴があったら入りたいというか……。
 (でも、総裁の英文解釈のご講義の書籍化は、いまからすごく楽しみ)

 さらに、私どもがいつも学ばせていただいている法友の方(英語もプロフェッショナル)から
 「英語の『あ』は後に続く子音でまた微妙に変化するのですよ」
 「単語のスペルの法則はあってなきがごとしですよ」
 というお教えをご伝授頂きました。(ありがとうございました!)

 いや、「誰もこんな記事読まんだろうなー」と、ぱこぱこと勝手なことを書き綴っていたところ、まさかそんなプロにまで目をお通しいただいているなんて想定外。
 ……さあ、かなり苦しくなって参りました。
 もはや、あちらこちらに「うわあ、すんません、頼むから見逃して下さい」、と頭を抱えつつも、途中まで書いちゃったので、毒くわば皿まで、もう少し「やりなおし英語」の記事を続けさせていただきます。

 ちなみに、もう一つのトピックとして、同人気講師の同じ講話によると、年明け1月4日の大川総裁の法話は「欲と生霊」についてであったとか。
 ……そうか、やはり件(くだん)のお人と、おそらくはその関係者は、いまだ総裁に「生き念」をお持ちなのか、と、タイトルを聞いただけで切なく思ったりしました。

 さて、では勉強法について。
 前回も予告申し上げ、今回こそ、「瞬間暗唱」について……と思ったところが、

 「いきなり暗唱なんてムリ!」
 「そもそもCDの外人さんが何言ってるかぜんぜん分からない」
 「ハードル高すぎ!」

 というご意見もおありのご様子。

 確かに、「構文集に載っている文の構造や意味が分からないままに暗記しても、あまり効果が得られない」、という説を思い出す。

 そこで、暗唱の前に、内容を理解する二種類の方法、

 (1)「かんたん記号つけ精読法」
 (2)「絶対音読」

 をご紹介させていただくことにした。
 ちなみに、どちらもきっちりやりこむと、文章を暗唱することができる。
 特に、(2)「絶対音読」などは、「瞬間暗唱」とともに英語の二本柱にしてしかるべき学習法で、しつこく音読だけをすれば、瞬間暗唱も必要ない、という人もいる。

 まあ、鉛筆を握るのが面倒くさく、「文の構造なんて今更やるまでもない」、とか、「この方法のほうがかえって混乱する」というひとは、ここのところはすっとぱしていただいて結構である。

 (というか、このブログの英語シリーズじたいが全面的に来訪者からすっとばされている気がするのだが)

 では二つの勉強法のご紹介。

 (1)「かんたん記号つけ精読法」

 命名は小生だが、かなりポピュラーなやりかただと思われる。
 どんな方法か。
 簡単に言うと、「主語(だれが)」「述語(どうした)」を中心に、文の構成要素に決まった印をつけて囲んだり、スラッシュで区切ったりして、文章の構造を頭に入れる方法。

 実際の手順は、

 ① 英文と和文の対訳を用意する。
 ② 英文にとりかかるまえに、自分なりに、
 「主語」「述語」「その他」……といった文の要素に対し、それぞれたとえば、
 「主語=四角で囲む」
 「述語=波線をひく」
 「それ以外=△で囲む」
 ……などといった記号を決める。

 ③ それから、覚えたい文章にとりくむ。
 まず和文の主語(述語でも良い)に記号をつけたら、
 それに対応する英文の主語(述語でも良い)に記号をつける。
 ……つぎに和文の述語に記号をつけて、
 それに対応する英文の述語に記号をつける。
 ……というふうに、和英交互に、「主語」「述語」「その他」を記号をチェックしていく。
 こうして、全部の単語にもれなく記号をつける。

 ④記号をつけ終わったら、すぐに英文を隠して、日本語を見ながら、英文を書き出してみる。
 
 以上が手順のすべて。
手順をふんで、④をやってみると、不思議なことに、意外と英文が出てくる。
 ちょっと実際の文章でやってみましょう。

 【具体例】
   ①「中学英語重要構文」から、理解して覚えたい文章を決める。
    今回は111番の「I have a dream」を選ぶ。 
   ②主語を四角、述語を波線、それ以外を△、で囲むことに決める。
   ③文章に記号をつける。 

  課題文は、
  (和文) 「私には夢がある」……(英文)「I have a dream.」

  まず和文の主語の「私は」を四角で囲み、次に英文のそれにあたる単語、「I」を四角で囲む。
  それから、述語の「ある」に波線で引き、英文の「have」に波線を引く。
  そして、それ以外のパーツ、「夢が」を、△で囲み、次に「a dream」を三角で囲み、必要なら「a」と「dream」をマルで囲む。
  ④全部囲み終わったら、「私には夢がある」という和文だけを見ながら、英文を書いてみる。
  ……以上。

 この方法はシンプルだがポピュラー。
 英文の構造を頭に入れるのに効果がある、といわれている。
 確かに、小生が家庭教師をしていたときにも、これを使って高校生に教えていたし、塾で習ったという人もよくお見かけする。

 英文だけでなく、さまざまな言語でも有効らしく、
 たとえば、受験 現代文のカリスマといわれる出口汪氏 (←この方、なんと、宗教家 出口王仁三郎氏の実の曾孫なのだ!) の指導する「論理エンジン」という国語特訓教材も、日本語の「主語・述語・それ以外」を組み立て、一つの文を分析していく方法を訓練している。
 また、小生の高校時代の古文の先生も、徹底的に品詞分解と辞書引きの予習をさせ、授業で当てて間違えると「君、僕の授業受ける資格ないから、図書館で自習したまえ」と生徒を教室から出してしまう「鬼」と呼ばれた人であったが、担当したクラスの古典の学力はつねに平均より上だった。

 この「記号つけ」で精読する方法を大々的にとりあげているのが、
 「マル書いて覚えるつがわ式暗記法」(つがわ式で検索すると書籍多数)や、
 「千進予備校 ロッケー式( 書籍「あなたも3倍速く正確に英文が読める!―「ロッケー式英文読解法」を公開します!   藤本 ヒロシ (著) 」)」。

 それらの大手は、これをもっと練り込み、それぞれ「暗記法」や「英文読解法」としてレクチャーし、高額教材を出している。(教材では、それぞれの指導者が、それぞれ体得した「コツ」を教えてくれるようである。お金に余裕があったら見てみたいものだ)

 特に、前者、つがわ式「世界最速」暗記法の津川 博義氏は、これを「暗記法」として、一時期テレビで「公開実験」のようなことを次々やってのけた。

 かなり以前、氏の出演したテレビ番組をいくつか見た記憶があるのだが、
 まったく英語が出来ない若い芸人さんたち (事前に行ったテストでは、50点満点の英単語のテストで、全員の平均点が一ケタだった) を集め、単語暗記法(このブログの「単語編」でも紹介)を教えて、覚える時間をとってから、テストを行ったところ、英単語テストの結果、平均点が50点満点の30点ぐらいまで上がってしまった。
 さらに、次にはこの「記号つけ」法を教えると、若い男の芸人さんは、難なく英文の丸暗記に成功してしまったのだ。

 また、別な番組では、かなり年齢の高い、英語が苦手そうな男性俳優が、比較的長い文を、難儀しながらもこの方法で丸暗記に成功、スタジオでかなり長い文章を最後まで書いていた。 

(氏の教材の無料DVDやホームページにて、この英語暗記のテレビの一部が収録されているようである)

 まさか、この方法で英文の丸暗記が出来ると思わなかったので、小生たいそう驚き、「年がいっても、暗記できる方法というのはあるものなのだな」と感心した覚えがある。
 以上、文章の理解をしながら、暗記もでき、手間のかからない方法でした。

 【補足】……この「記号つけ」について、もうちょっと詳しく。

  ・文法をやったひとなら、四角や波線などと言う記号を決めずに、全ての文の要素を丸で囲んで、主語にS、述語にV……といった文型の略語をかいてもいいのだが、とにかくここは「英語をやり直しはじめたばかり」の状態を前提として、簡単に記号のみのやり方をご紹介した。
  ・命令文や、Itを使う文だと、英文あるいは和文に「主語」がない場合があるので、文章の先頭、本来主語がある部分を空欄で四角で囲む、とか、自分で特殊な記号をつける、などとする。
  ・また、主語のない文や、取りにくい文は、述語から丸をつけるのがお薦めである。 (書籍「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」でも、英語はまず「述語」から押さえるといい、というお話がのっている)
  ・さらに、大川総裁のテキスト「中学英語重要構文」の26以降では、関係代名詞等が出てきて、やや文章がめんどうになってくるが、記号つけの方法は同じ。ただし、複雑な文章の意味を正確にとるため、三色ボールペンで複文を色分けしたり、「S」「V」「O」などの文型の記号を用いるという人もいる。
 【実例】
  299 私にはハワイで暮らしている友人がいる / I have a friend who lives in Hawaii.
  この「記号つけ」をやってみよう。
 まず、主語の「私には」「I 」を四角で囲み、
 述語の「いる」「have」に波線をひき、
 それ以外の「ハワイで暮らしている友人」「 a friend who lives in Hawaii」を大きな三角でかこむ。
  そののち、「ハワイで暮らしている友人」の部分について、単語に交互にマルをつけるだけでもよし、
  その節を、 「友人がハワイで暮らしている」という小さな文と見なして、
  「友人」「a friend who」を小さな主語と見て色違いの四角、「暮らしている」「lives」を小さな述語とみて色違いの波線、のこりを色違いの三角と、あとはマル……とつけるか、
  「友人」に小さなSを、「暮らしている」に小さなVを……というふうに文型の記号を書き込んでいっても良い。
  このあたり、高額な料金をとる指導者たちが、それぞれの流派で、それぞれの秘訣をもっているのではないかと思われる部分です。
 とりあえず、おのおのがた、やりやすいようにマークされたらよいかと存じます。

(2)「絶対音読」~オーソドックスな勉強の仕方

 さて、いままでは、できるだけ楽な順から勉強法を紹介してきたが、
 「やっぱりきちんと机に向かって、書き写したり暗唱したりする方法をやりたい」という方。
 あるいは、「記号つけ精読法」だけでは、どうしても攻略できない、とか、CDを幾度聞いても、さっぱり分からん、という方。
 そうした方には、國弘 正雄 氏, 千田 潤一氏らによる、「絶対音読」というすぐれた方法が普及してるので、それをご紹介申し上げる。

 以下、ご紹介する勉強方法は、書籍「英会話・ぜったい・音読(CDブック)」を以前にやってみて、小生が覚えているやり方。

 まず、用意するものは、テキスト、CD、ノート、筆記用具、時計。あればストップウォッチ。

 そして、今日やる一章を決める。
① 一章分のCDを聞いて、内容を推測する (2回以上)
 最初はテキストを見ないで、音だけで意味を想像する。
 だが、一度目でCDを聞いてもさっぱり分からなかったら、二度目はテキストを見ながらCDを聞く。
 (大川総裁曰く「ネイティブの英語がすべてききとれるわけではない。英会話は、わかる単語からひたすら推測する」)
 CDのしゃべりが早すぎるなら、音声の再生速度を遅くする再生ソフトなどで、しゃべりを「遅回し」にして聞いてみるとわかりやすい。

② 意味を理解する
 ……和文と英文をつきあわせて、文を理解する。分からないところは辞書を引く。(1)で書いた「記号つけ精読法」などを用いて、文の構造をつかむ。

 (やり直し英語なので、だいたい意味は分かります。
 しかし、どうしても分からなかったら、英文法のテキストなどを読むか、分かる人をつかまえて聞くか、されることをおすすめします。
 「聞ける人が周囲におらず、どうしてもおぼろげにしか分からないんだけど、先に進みたいなあ……」という場合には、とりあえず文章に印をつけて疑問は棚上げし、音読・筆写などの作業をつづけてもよいと思います。
 先に行くと思い出すこともありますし、後で戻ってから確かめる、という手もありますし)

③ テキストを音読 (3回以上)
  CDを聞かずに、自分で声に出して読む。

④ 音読しながら筆写する(3回以上)
  書籍「英会話・ぜったい・音読」によれば、「できるだけ早く、しかも、パソコン等使わずに手で書き写す」のだそうである。
 ストップウォッチがあれば、時間をはかりながら、「声に出して読みつつ」書き写す。
 最初は一単語ごと、見ては書き、見ては書きの繰り返しだが、やがて一文節ごと、一文ごと、一ページごと、書き取れるようになるという。

⑤ 書き写し終わったら、手をとめ、何も見ずに暗唱してみる
  できたら⑥へ。出来なかったら④を追加でさらに2回やる。

⑥ もういちど、何も見ずにCDを聞く
 最初よりずっとわかりがよくなっているはず。「おお、やったぞ!」という達成感をしみじみとかみしめる。(←この快感を味わうことが大事 !)

 ……はい、以上、今日の勉強はおしまいです。ごくろうさまでした。
 
 明日は次の章へ。明後日は次の次の章へ……と、一日一章ずつ続け、テキストの最後まで行ったら、また最初に戻って、
 「通算五回」以上、テキストを最初から最後まで繰り返す。

 「一日一章じゃ物足りない」とか、逆に「やる量が多すぎる」という人は、量を加減されればよいし、
 さらに「CDの音と文章がどうしても一致しない」、という人は、①の「テキストを見ながら聞く」を、速度を落としてなんども繰り返したり、
 どうしても覚えられない、という人は、⑤を幾度もやったり、など、各パーツの訓練量もお好みで増やす。

 ご紹介しながら思ったのは、これは、本当にいちばんオーソドックスな「やり直し英語勉強法」だなと思う。
 細かいところははぶいて目次的にご紹介したので、これをじっくり取り組んでみたい、という方は、図書館にも入っている、「英会話・ぜったい・音読」をお読みになることをお薦めする。(「音読用例文」もよいものがつまっていて、二ヶ月、毎日とりくむと、かなり英語力があがりそうだ)

 では、なぜこのサイトではいちばんに推奨していないのか、というと、
 ひとつには、この方法は「構文集」には余り向いていない、という声を聞いたことがあるため。
 この方法は、中学英語の教科書など、まとまった読み物で、バランス良く文法なども入っているものが望ましい、といわれる。
 だが、サイトでは「構文集を使って英語攻略」を主眼としているので、ちょっと厳しいかな、という気がしないでもない。
 また、もう一つには、「朗読」「音読」といっても、「書き写し」をしなければならない、としていること。体が消耗しているときには、書き写すというのが大変な難儀なのである。
 特に、書籍の筆写には「パソコンなど使わないこと」となっているので、それもちょっとおっくうに感じ、腰が引けてしまう人もいるだろう。

 ただ、小生の同級生で、ど田舎から塾にも通わずストレートで東大に入った女の子は、英語の攻略にこれと似た方法を使っていた。
 いまでも懐かしく思い出すのだが、小柄で、やや大きめの靴をはいたその同級生は、夕日の中を細身のペンギンのように愛らしくぺたぺたとした足取りで帰宅していくため、後ろ姿からでもすぐに見分けがついた。
 当時流行っていた、ユーミンの「ダンディライオン」という歌の中で、「夕焼けに消えてゆく、クセのある歩き方」という歌詞を聞くたびに、いつもあの背中を連想させられ、どことなくのんびりとした性格を思い出してはほほえましい気持ちになった。

 だが、こと勉強となると、実に堅実で、一個ずつレンガを積みあげて大伽藍を築くがごとき、己に厳格な努力家だった。 
 特筆すべきは、彼女は最初からぬきんでて成績が良かったわけではなく、同じ高校の一年生のときに、数学の点数が悪くて、小生とともに、教生にきていた先生に呼び出し食らって(←なぜ担当の教諭でなく、教生の先生だったのかは未だに謎だ) 教務室で並んで説教されていたこともあるぐらいだったのだ。

 しかし、小生は帰宅するとすぐに寝ている虚弱人間だったのに対し、彼女はその後、ばしばしと努力を積み重ね、高校からはじめたというクラシック・ギターの部活動もきちんとこなしながら、成績はすぐにトップクラスにおどりでた。

 その時の彼女の英語の勉強法が、これに近かったのである。
 当時、CDなどなく、教科書の音声を聞きながら勉強するという勉強法は普及してされていなかった時代、彼女はCDなど使わずに、ひたすら音読と筆写と暗唱で英語を攻略していったのだ。
 そして、塾にも通わず東大にストレート合格した。
 現役東大合格の報を聞いたとき、「うんうん、当然ですよ!」と、自分のことより嬉しかったのを覚えている。

 ……しかし、その後の彼女に関しては、胸の痛みなくしては思い出すことが出来ない。

 大学卒業後、電話で幸福の科学の存在を知らせ、書籍と雑誌を送ったことがある。
 すると、彼女は小生に一言もいわずにいつのまにか(当時の)誌友会員になって、しかもかなり長く会員でいたが、いつのまにか会から離れていたのである。
 後になってからそのことを知り、勧めておきながら、入ったことも離れたことも知らなかったという間抜けな小生が驚いて経緯を聞くと、彼女は一言だけ、

 「いくらいい思想でも、認められなければどうしようもないんだよ。
 これが世の中に広まらなくちゃ、世の中はかわらないんだよ。
 いい思想はあるだけじゃだめなんだよ。」

 と意味深なことをつぶやいただけで、それきりこの件に関しては黙ってしまった。
 ……うー、よくわからんことをいうなあ。
 ……いつかこの意味、小生にもわかるかなあ。
 そんな風に思っているうち、年賀はがきで、彼女は結婚したことを知った。
 結婚の報をきいたときも、やっぱり心底嬉しかった。
 それまで弟さんが夭折したりして、辛い思いもずいぶんした彼女である。
 東大出は縁遠いのでは、と、正直ヒヤヒヤしたりもしていた。
 あの「ダンディライオン」という歌の「傷ついて日々は彼に出会うためのとても大切なレッスン」というサビを思い出して、おー、まったくもってあの歌の通りだったなあ、と幸せな気持ちになっていた。

 それ以降も、相変わらずほのほのとした人柄で、東大という学閥を鼻にかけない、穏やかで気持ちの良い話しぶりだった。
 きっと、彼女が今暮らしているご近所の人々は、みな彼女が東大を出たことすら知らず、居心地良く話をしているにちがいない。
 お子さんも生まれたが、年賀状を見ていると、そのお子さんというのが彼女のお父さんの大学教授にそっくりの、大変利発そうな少年であった。(←しかも小生はマックス・ウェーバーの講義を受講したときに、この教授に担当された覚えがある。滅多なことで雑談しない教授が、ある日の大学で、演壇に立つなり「この中に娘の友人がいるそうで」と言った時には椅子から落ちるかと思うぐらい驚いた) 
 そして年賀状や暑中見舞いといった彼女からの季節のたよりは、厳しい地上世界で「人柄の良い努力家が、幸せになっている」というその事実とともに、いつも小生を暖めた。

 ……だが。
 ある年、彼女の便りには、体の不調が短く書かれてあった。次の年の年賀状、体は回復していないようだった。
 そして、とある年の年賀状では、息子さんとリュックをしょってハイキングに行ったときにとった写真が刷られていたが、その鼻には痛々しく酸素の管が入っていた。
 そのとき、ようやく彼女がもう、機械の助けなしでは動き回れないのだ、と思った。
 なんとか会いに行きたかったが、彼女の住んでいるところは離れた土地で、会うチャンスがなかった。

 そうこうするうちに、幸福実現党が発足した一昨年のこと。
 彼女が二十年前に、
 「いくらいい思想でも、認められなければだめなんだよ。世の中は、変わらないんだよ」
 といっていた言葉を思い出した。
 今年こそ連絡をとらなければ、と思った正月。
 彼女のご主人から来たハガキは、その夏の七月七日の日に、彼女が息をひきとった、という年賀欠礼の知らせだった。
 これほどショックを受けた元旦はない。
 あんなに努力家で偉ぶらず、有用な人が夭折して、小生みたいに無為徒食の人間が地上に留め置かれるとは。
 これからずっと、七月七日は彼女のことを思い出し、祈り続けるだろうなと思った。

 あれからもう、一年が過ぎた。
 「彼女はいま、どうしているだろうか……」と思う。
 短い間だったが、人知れず読んでいた幸福の科学の教義を覚えていてくれているだろうか。
 それを足がかりにして、迷わずに、本来いるであろう世界に帰天出来ているだろうか。
 それとも、お子さんが心配で、まだ体のないまま地上にとどまっているのだろうか。
 若い頃夭折した弟さんとは会えただろうか。
 ……こうしてブログを打ちながら、ふと彼女に、「あの時の勉強する姿を、ブログに書かせてもらいましたよ」、と心の中で話しかけると、 
 いまでも小生の歩む少し先、永遠に高校生の彼女の背中が、夕日の中を歩くのが見える。
 ……二十年前の言葉の意味は、ついに彼女の口から語られることはなかった。
 その言葉は未だ、小生の中で宙に浮いたままだ。

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