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結党宣言直後、会員さんたちの声

 小生たちが、支部から出ようとすると、小生の伴侶の古い知人、信者のB夫人がやってきた。

 B夫人はかなりの高齢だが、いまだに覇気衰えず、いくつか起業して成功させたり、見知らぬ不良がやんちゃしているのをみると、つかつか寄っていって頭を張り飛ばし、そのあとで面倒をみてやるといった武勇伝に事欠かぬ英傑である。

 さっそく伴侶と立ち話をしている。

 B夫人 「先生は、二代目あたりで党を作るとおっしゃっていたけど、それが前倒しになったのね」
 小生の伴侶 「選挙直前の電撃結党だし、公認の党になることがまず目標かな。五人の当選か、百二十万票+一人の当選で、公認の党になる。そこが第一目標だろうね。
 でも、今回の選挙は自民も民主も票がとれなさそう。こういう乱戦の時は、少数勢力でも政治を左右する力が持てる。結党したばかりで、政権党入りを果たすには、確かに今をおいて他にないぐらいのいいタイミングだと思う。」

 などと話しているところへ、小生、無礼にも、

 「どう考えても、何がどうなっても、勝ち目が薄そうに見える。この戦。どうするんですか」

 と、聞いてみた。
 B夫人もまた、選挙というものをよく知っている人である。その点は小生より痛感しているらしい。

 「……わからない。でも、あたしたちは先生について行くしかないよね。
 先生が世直しするっていうんだから、あたしたちが戦うしかないのよ!」

 と、すでに闘志を燃やしている。B夫人の一家は、困難が大きいほど燃え上がるアメリカ開拓民のような一家なのである。

 しかし小生は生粋の気の小さい日本人、総裁は「かなりの波風が予想されます」と言ったが、小生の頭には、惨敗→大迫害の図が頭にこびりついて離れぬ。

 不安は募るばかりだ。一観察者がどうしようもないのであるが、団体の行く末を案じ、正直、なんとも落ち着かない。

 まっとうな宗教団体が一つ生まれ、発足からここまで大きくなるにはたいへんな苦労があった。
 小生は信仰者である伴侶のそばでそれをずっと見続けてきた。
 なみの会社の発足や運営どころではない、大変な事業であった、と思う。
 特に総裁ご一家にとっては、嵐に次ぐ嵐であったのではないか。

 そして、やっと世界にも支部が出来、日本でもナンバーワンに手が届く地位にいるというのに……。

 下手をすれば、すべてを失ってしまいかねない。

 小生、総裁と総裁のご家族、さらに、小生の愛する人々が深く傷つくのではないか、どうにかされてしまうのではないかと思うと、暗澹たる思いだ。

 胸がつぶれたようで夕食も喉を通らず、ビールばかり啜っていた。
 その晩はなかなか寝付かれず、ため息ばかりついていると、小生の伴侶は、

 「大丈夫だって。
 たとえ、万一、全部の支部がなくなっても、先生が残れば、それでいい。
 私たちは、二十数年前の、なんにもないところから、ここまでの団体になったんだから、
 もしすべてが失われても、また先生と一緒に一から作り上げて、教えを後から来る人のために残す。
 それだけのこと。
 ……だから、大丈夫なんだよ。」

 小生、妙に感銘を受ける。

 そういえば、古代中国、国を追われた孔子も、転々と旅をしながら、数千年残る教えを説いたし、キリストも磔の後、弟子たちが教団を大きくした。

 ああ、そうか。
 本物の信仰者というのはそういうものなのだな。

 警察の追っ手がかかって、札束持って隠れているようなニセ宗教者もいたが、本物の宗教家とその弟子たちは、人間の出来が違っている。
 孔子の弟子やキリストの弟子たちも、きっとこうした気概で先生について行ったに違いない。

 歴史上の人物と話したかのように、ひどく感心してその晩は寝ることにした。

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